キャリア体験談 鈴村文那
私は母校の眼科に入局後、大学院を卒業した年に出産し、翌年度から常勤医として復帰しています。若輩者ですが、母親として子育てをしながら大学で臨床と研究を続けている一例として医学生や若い先生方のご参考になればと思い、筆を執らせていただきました。
出産を経て大きく変わったのは、自分の時間を自分の都合で調整できなくなったことです。突然の体調不良への対応は勿論、看病すれば必然的に自分も罹りますし、子どもが自分でできることが増えて手がかからなくなったかと思えばむしろ危険な局面が増えて目が離せなくなりました。恥ずかしながら、寝かしつけと共に自分も寝落ちしてしまうことも多々あります。
復帰後社会人としての生産性がかなり落ちたことに対して、(その割には母親としても色々抜けていて完璧ではないことを省みると余計に)自己嫌悪に陥ることもありました。ただ、人に平等に与えられた有限の時間の中で育児に関わる名もない業務をこなすとなると、産前に比べて仕事をできる時間が減るのは明らかなので、できない理由を探すのは辞めることにしました。これが正解なのかわかりませんが、今は自分が置かれた環境においてどのように工夫したらより仕事を進めていけるのかを常に意識して、定期的に振り返って改善するようにしています。
先日、ある行事に参加した我が子の自立した様子と達成感にあふれる笑顔を見て、これまで体験したことのない優しく温かい喜びに包まれたことがあり、そこで初めて我が子の喜びは私の喜びなのだと心の底から実感しました。母親としての眼科医生活を享受できているのはこのような私を支えてくださる医局の先生方や家族のサポートのお陰で、本当に感謝しています。患者さんからの「有難う」の言葉の重みを忘れずに、一日一日を大切に、引き続き精進していきたいと思っています。