研究内容

応用遺伝学研究グループ

応用遺伝学研究グループでは、網膜疾患などの眼疾患に対するオミックス解析と遺伝子治療の開発に力を入れています。

遺伝子治療の開発

 現在、注目されているゲノム編集という技術を用いると、従来の遺伝子治療において治療対象とならなかった遺伝子変異も治療可能となります。しかし,ゲノム編集による遺伝子治療の効率は低いため、現時点では実用化が難しいとされています。
 そこで、私たちのグループでは、治療効率の改善を目標にゲノム編集技術の革新に取り組むことで、これまで治療法がなかった遺伝性網膜変性疾患に対する画期的な治療法の開発を目指しています(右図)。

検体解析と新しい診断法の開発

難治性眼疾患の病態解明や新しい診断法の開発を目的に網羅的な検体解析(オミックス解析)に取り組んでいます。患者由来の眼内微量サンプルを用いて病態を正確に評価するためには、ゲノム解析を基本とし、様々な生体分子の情報を素早く、正確かつ網羅的に解析することが必要です。そのために、長鎖シーケンス解析やAI解析を含む最新のデータサイエンス技術を取り入れた研究を目指しています(右図) 。

主要な業績

Nishiguchi KM, Miya F, Mori Y, Fujita K et al., A hypomorphic variant in EYS detected by genome-wide association study contributes toward retinitis pigmentosa. Commun Biol. 2021;4(1):140.

Nishiguchi KM, Fujita K et al., Single AAV-mediated mutation replacement genome editing in limited number of photoreceptors restores vision in mice. Nat Commun. 2020;11(1):482.

Nishiguchi KM, Fujita K et al., Retained Plasticity and Substantial Recovery of Rod-Mediated Visual Acuity at the Visual Cortex in Blind Adult Mice with Retinal Dystrophy. Mol Ther. 2018;26(10):2397-2406.

Fujita K, Nishiguchi KM et al., Spatially and Temporally Regulated NRF2 Gene Therapy Using Mcp-1 Promoter in Retinal Ganglion Cell Injury. Mol Ther Methods Clin Dev. 2017;5:130-141.

リバーストランスレーショナルリサーチグループ

網膜疾患のメカニズムの解明と新規治療法の開発にむけて

我々のグループでは、実際に患者さんが呈している網膜疾患の症状や問題点を臨床医ならではの視点で捉え、患者さんの硝子体液や前房水などのサンプルを使用し、基礎研究の手法を応用して臨床問題を解決していくリバーストランスレーショナルリサーチを進めております。
これまでに、加齢黄斑変性においてアレルギー関連受容体であるヒスタミンH4受容体が脈絡膜新生血管に発現しており、その遺伝子欠損マウスでは新生血管が抑制されていること、さらには受容体拮抗薬の投与によって脈絡膜新生血管を抑制することから、新たな治療ターゲットとしての可能性があることを報告しました。また、糖尿病網膜症については、ω3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)の内服投与によって、その代謝産物18-HEPEが網膜内のミュラーグリア細胞に特異的に作用し、脳由来栄養因子(BDNF)を介して糖尿病早期に見られる網膜神経細胞の機能低下を治療できる可能性を示しました。
このほか、重症網膜疾患に使用される手術用眼内充填剤であるシリコーンオイル関連の視力障害(Silicone oil-related vision loss: SORVL)の病態解明を通して明らかになった網膜障害の新概念の提唱や、糖尿病網膜症に対する老化研究の応用など、網膜疾患に対して多角的に研究を進めています。

緑内障グループ

緑内障は約20人に1人が罹患するとされる一般的な疾患ですが、未だ不明な点が多く本邦における失明原因の第一位となっています。そのため今後も大いに研究の余地がある分野です。名古屋大学の緑内障研究班は2021年に発足した新しいチームです。緑内障患者さんの視機能と網脈絡膜構造に関する研究や緑内障手術に関する研究等を行っております。緑内障研究班では国内の他施設とも連携し、緑内障患者さんの視機能評価や診断、治療等に貢献できるような研究を心掛けております。研究成果に関しては国内・国際学会や学術誌などへの報告を順次予定しております。

黄斑グループ

黄斑グループでは加齢黄斑変性や近年話題となることが多いpachychoroid関連疾患などの黄斑疾患を対象として、OCT/OCTAなどのイメージングや前房水中のサイトカイン解析を用いた臨床研究に取り組んでいます。黄斑診療においては、治療として抗VEGF薬と光線力学療法が広く使用されていますが、ここ数年で新しい抗VEGF薬が続々と使用可能になり、治療の選択肢が広がってきている一方で診療指針が複雑化しています。名古屋大学の豊富な症例数を活かし、黄斑疾患の病態解明を進めると共に、明日の診療に直結するエビデンスの構築を目指しています。

ぶどう膜炎グループ

我々のグループでは、ぶどう膜炎に関連した基礎から臨床までつながるような研究を目指しております。基礎研究を中心に行っている西口教授、藤田先生のグループに、遺伝子解析の手法を活用しながら患者さんの検体解析を行っていただいております。結果を臨床症状などとリンクさせながら原因不明のぶどう膜炎の解明に迫りたいと考えています。また診断の難しい眼内悪性リンパ腫の診断についても専門科と連携しながら診断率向上を目指しています。ぶどう膜炎は原因不明な方が3-4割と多く、診断率向上や、病態の解明、治療成績の向上に寄与できるように取り組んでいます。

AIグループ

昨今のビッグデータの登場やコンピュータリソースの発展により人工知能は急速に発展・普及してきています。機械学習や深層学習を用いることで人間の眼では判別が難しいアルゴリズムや画像の特徴量の抽出を行うことが期待されています。名古屋大学眼科では眼科領域における機械学習の応用を行っております。名古屋大学大学院情報学研究科のご協力をいただきながら、機械学習で最も汎用されるものの一つであるpythonというプログラミング言語を用いてプログラミングコードを作成し、現在は主に遺伝性網膜疾患の画像解析に取り組んでいます。AIはブラックボックスとよく言われますが、機械学習で学んだ重みに着目することでAIの着目点を可視化することも可能となっており(図)、今後のますますの発展が期待される分野です。共同研究先で得られた大量の眼底画像を用いて健診を行うAIの開発を多施設共同で行い、実際に健診業務への応用を試みています。