2013年10月7日、名古屋大学眼科医局カンファレンスルームにて、ドイツのTübingen大学の高名な眼科医であるEberhart Zrenner教授の御講演を拝聴する機会を得ましたので、ここに記します。
Eberhart Zrenner教授は、遺伝性網膜疾患に対する遺伝子治療と人工網膜の開発がご専門です。講演内容を、以下要約します。
人工網膜は、失われた視細胞の機能を電子機器で代替し、視覚を回復させることを目的としています。人工網膜(チップによる代替)をどこに挿入するかには、[1]epiretinal [2]subretinal [3]suprachroidal の方法があり、Dr Zrennerの所属するドイツの大学では、[2]subretinalの方法で臨床研究がされています。それは手術によって、皮下、強膜、subretinalにwirelessのチップを挿入します。チップの挿入においてはfoveaをねらいますが、その周囲にしか挿入できないこともあります。電気信号を増幅し、1秒に5回のelectrical imageを双極細胞層に送ることができ、人工網膜経由のデータが脳に送られることにより、視覚の回復につながります。失明した患者が対象となり、視力や視野が残っている患者には行いません。成功例では、失明した患者が、光を感じる、机上の果物等の存在が認識できる、または、スプーンやコップなどをつかめるようになるなど劇的なものでした。他例では、wordは認識できないが、letterだと認識できる結果が得られました。しかし、副作用としては網膜下出血、眼圧上昇がありました。
大学病院で初診の問診をとっていると、網膜色素変性症の患者さんが、数多く来院されます。なかには、すでに市民病院や近医にて、治療法はないと診断を受けているのにもかかわらず、一縷の望みを抱いて大学病院を受診されます。この講義を受けて、遺伝子治療や人工網膜が早く一般化され、より多くの失明した遺伝性網膜疾患の患者さんの視覚が回復されることを願いつつ、駆け出しの眼科医として臨床研究への興味が膨らみました。
[zrenner先生講演会]