片岡恵子先生 留学便り No.1

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抗VEGF治療薬の出現により、加齢黄斑変性症や糖尿病網膜症の治療はこの10年で劇的に進歩しました。しかし、網膜神経細胞へのダメージが大きいと視力低下を防ぎきれないのが現状です。では、どのように網膜細胞は障害をうけるのか、細胞死のメカニズムを解明することで、より効果的な治療戦略を見つけ出すことが、現在の私の研究テーマです。2012年4月、ここボストンにあるハーバード大学医学部関連病院のMassachusetts Eye and Ear Infirmary (MEEI)で留学生活をスタートさせ、早1年が経とうとしています。この大きなテーマに、ああでもない、こうでもないと悩みながらも、ラボメンバーにも恵まれ和気あいあいとした雰囲気の中、毎日基礎研究の仕事をしています。

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ボストンは、東海岸に位置するニューイングランド地方の中心都市です。ハーバード大学やMITを始め、タフツ大学、ボストン大学など数々の大学、研究機関等があり、世界中から研究者や学生が集まってきています。また、イギリスからの入植者により作り上げられた町で、レンガ造りの美しい町並みや歴史的建造物が数多く残る、アメリカ人にも人気の観光スポットでもあります。雪が解け、暖かくなり始めた4月のボストンマラソンに始まり、独立記念日の花火、夏の野外音楽祭、秋にはメープルの紅葉で町中赤や黄色に染まります。そして、その後は寒くて厳しい冬が始まります。

さて、私の所属するラボを少し紹介いたします。PDT治療の開発に多大な功績を残されたMiller教授の率いるAngio genesis labは、私のボスであるギリシャ人のVavvas先生とアメリカ人のKip先生の2グループに分かれます。私たちのグループは、主にギリシャ人、日本人、中国人、オーストラリア人、シリア人、ポーランド人で構成されており、交わされる英語も各国の訛りが強く、文化の差や各国の医療が抱える問題などが話題となることもあり、なかなか興味深いものです。毎週火曜日のMiller先生との合同ミーティングで1週間の進行状況を報告するという大きなプレッシャーがあります。毎週木曜日Vavvas先生とのミーティングでは、順番にプロジェクトをスライド発表する場が回ってきます。いかに人前で、さらに英語で話をするということが不得意なのかを思い知らされるよい機会です。この1年で英語力が向上したとは到底いい難いのですが、外国人恐怖症は克服できたように感じます。

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また、ここMEEIに留学するメリットの一つに、毎週木曜日の朝に開催されるGround roundsと呼ばれる眼科の症例検討会に参加できることもあると思います。また、お隣にあるSchepens眼研究所とのリサーチミーティングもよく行われるため、眼科研究の最先端では今どのようなことが話題となっているのかを肌で感じられ大変刺激的です。

留学に際し、親身になってご指導くださった寺崎先生をはじめ、医局の先生方には大変お世話になり、感謝の気持ちで一杯です。ここでの研究生活を帰国後の診療に生かすことができるよう、残された時間を無駄にせずさらに研究に励んで参りたいと思います。